2003年度の研究内容の概略

1-1. FD遺伝子とFT遺伝子の相互依存性
1-2. FT遺伝子機能の細胞非自律性

bZIP型転写因子をコードするFD遺伝子はFT遺伝子の機能発現に必要である。FD遺伝子は、芽生えにおいては、主に茎頂分裂組織で発現する(図1D, E参照)。FD蛋白質の制御標的として、花芽分裂組織遺伝子AP1, CALと花序分裂組織遺伝子FULを同定した。これらのうちAP1について解析を進め、FDによる発現促進にはFT機能が必要であることを明らかにした。一方、FD蛋白質のC末のリン酸化モチーフが、FT蛋白質との相互作用能とfd変異体の相補能の両方に必須であることも明らかになった。これらの知見はFT遺伝子とFD遺伝子は互いの機能を必要とすることを強く示唆する。分子レベルの解析に加え、fd変異と花成関連変異の多重変異体を用いた解析等により、これまで明らかでなかったFD遺伝子の役割についての理解が進みつつある。図2に、花成制御カスケードにおけるFT遺伝子とFD遺伝子の位置づけを示す。

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図1 FT遺伝子の組織限定的な機能回復実験

A: ft-3植物。花成が遅れる。B: FDプロモーターの制御下でFTを発現させたft-3植物。C: Bの植物の茎頂部分の拡大。花芽が形成されている。D: FDプロモーターの制御下でGUSを発現させた植物。E: Dと同様の植物の茎頂の縦断切片。倍率は不同。

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図2 花成制御カスケードにおけるFT, FD遺伝子の位置づけ

FT遺伝子は主に子葉・葉の維管束(篩部)で発現し、FD遺伝子が発現する茎頂分裂組織では発現がみとめられない。上述のようにこの二つの遺伝子の機能は相互依存的であること、また、花成の最終段階は茎頂分裂組織における花芽分化であることから、FT機能は茎頂で必要とされると考えられる。この観点から、FT機能の細胞非自律性について検討を進めている。まず、FT機能の組織限定的な回復実験をおこない、主に茎頂分裂組織で発現し維管束では発現しないFDプロモーターの制御下でFT遺伝子を発現させることでft変異の花成遅延表現型が相補されることを確認した(図1)。茎頂分裂組織のL1層特異的なPDF1プロモーターによる発現の場合にも相補がみとめられた。これらと並行して、胚軸接木法により、FT遺伝子の花成促進効果が接木面を介して伝達される可能性を検討している(図3)。

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図3 シロイヌナズナにおける接木実験(胚軸接木法)

A: 施術後の芽生え。点線は接木面を示す。B: 右は35S::FT(矢印)を接木したft-3; fca-1植物。左は接木が成立しなかったft-3; fca-1植物。C: B 右の植物の接木部分の拡大図。倍率は不同。

1-3. FTの相同遺伝子TSFの役割

TSF遺伝子の発現は、様々な点でFTの場合とよく似た制御を受けることが明らかになった。また、TSF遺伝子の機能欠損変異体は単独では明瞭な花成遅延を示さないが、ft変異の花成遅延を昂進することが判った(図4A)。さらに、過剰発現により、FTの場合と同様の顕著な早熟花成が引き起こされることが明らかになった(図4B)。これらの知見から、TSF遺伝子はFTと同様に花成促進に関わる遺伝子であると考えられる。これら二つの遺伝子の役割分担に関して研究を進めている。また、系統間にみられる多型についても解析を進めている。

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図4 TSF遺伝子の機能欠損と過剰発現の効果

A: 機能欠損変異の表現型。左から、野生型、tsf-1ft-1ft-1; tsf-1の各植物。B: 過剰発現の表現型。左から、非形質転換体(野生型)、FTの過剰発現(#11-1株)、TSFの過剰発現(#1-2株)、TSFの過剰発現(#2-2株)の各植物。AとBともに恒明条件で生育させた。AとBのそれぞれで倍率は一定。

1-4. 優性のfwa変異における花成遅延の機構

FWA遺伝子は野生型の芽生えでは発現がみられないこと、優性のfwa 変異では茎頂部を含めて強い発現がみられることを確認した(図5)。FWA遺伝子は、本来は花成制御には関与しないこと、優性変異体では異所発現による遺伝子産物が花成を阻害することが強く示唆される。FWA蛋白質は酵母細胞内および試験管内でFT蛋白質と結合することが判った。この蛋白質間相互作用によるFT活性の阻害が、これまでは不明であった優性のfwa 変異における花成遅延の原因であると考えられる。

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図5 FWA遺伝子の発現解析

A: in situ RNAハイブリダイゼーション。左は野生型、右はfwa-101Dの芽生えの茎頂部と子葉の葉柄。ともに長日条件下で発芽後5日目。B: RT-PCR/Southernハイブリダイゼーション。長日と短日条件で育てた10日目の芽生えを地上部と種皮の残骸に分けてFWAACT2の発現を調べた。

2-1. 頂端分裂組織の構造と機能を維持する機構

頂端分裂組織の構造と機能の維持におけるクロマチン構築因子群(CAF-1, ASF1等)の役割に焦点を当てて、研究を進めている。変異体を用いたASF1の機能解析、遺伝子発現のエピジェネティックな制御におけるCAF-1の役割の解析を進めるとともに、関連する因子(BRU1)についての共同研究もおこなっている。