最近読了した本の中から、自然科学関係の本を中心に挙げる。

2013年

  1. 10月7日 小山 慶太 :『寺田寅彦 - 漱石、レイリー卿と和魂洋才の物理学』中公新書, 2012年
  2. 10月5日 デズモンド・モリス(鶴田 公江 訳):『モリス自叙伝 − 動物とわたし』角川選書, 1988年
     ドーキンスの自伝前半部を読み、同じティンバーゲン門下で、 "Selfish Gene" のカバーの絵の画家でもあるモリスについても読みたくなった。以前に東京の古書店に廉価本として在庫していたのを覚えており、出張のおりに購入した。学部時代の指導教員であった P. Medawar を介した N. ティンバーゲンとの出会いや、現代美術界との関わりや画家 Joan Miro との交流、オックスフォード大学を訪れた当時の日本の皇太子を案内したエピソードなど、読んでいて飽きさせない自伝。ほかの著書もきちんと読みたいという気になった。
  3. 9月30日 新里達也(編著) :『カミキリ学のすすめ』海游舎, 2013年
  4. 9月29日 R. Dawkins : "An Appetite for Wonder: The Making of a Scientist", Bantam Press, 2013年
     生協の書籍部で見つけて購入。家系・生い立ちと "Selfish Gene" (1976) 出版までの研究経歴の前半部を語っている。 "Selfish Gene" 以降については、続編が計画されているようだ。
  5. 9月18日 佐々 亀雄 :『新種発見』日本談義社, 1961年
     夏の下鴨の古書市の3冊500円コーナーで見つけて購入したもの。著者はウスバキチョウの朝鮮半島北部山岳地亜種を発見し、亜種名にその名を残している。戦前〜戦中における朝鮮半島での蝶採集や登山に関するエッセイと熊本に引き揚げ後に書かれた主として自然や生物に関するエッセイを収める。書名にもなっているウスバキチョウ採集譚はなかなかおもしろかった。
  6. 9月16日 田添 京二 :『虫の居どころ』八朔社, 1999年
     札幌の南陽堂書店で見つけて購入したもの。札幌出張の帰途読み始めた。著者は福島大学経済学部に長く勤めた経済学者。昆虫に関するエッセイのほか、ご専門の経済学のフィールドワークに関する文章が収められており、ともに興味深く読んだ。
  7. 9月10日 E. H. Gombrich (trans. by Caroline Mustill): "A Little History of the World", Yale University Press, 2008年
     5月末に生協の書籍部で見つけて購入し、たびたびの中断をはさみつつ少しずつ読み継いで読了。留学中に、その「語り」の巧さに引き込まれて "The Story of Art" を一気に読了したこともあり、若書き(ドイツ語の原書は26歳の時の著書)の本書も期待して読んだ。子供向けの本ではあるが、(高校で世界史を取らなかった)大人が読んでも十分におもしろい本だと思う。
  8. 9月9日 青木 淳一 :『博物学の時間 - 大自然に学ぶサイエンス』東京大学出版会, 2013年
     出版されてすぐに読んだ。6, 7章の「野外へ出る」の部分がおもしろく、もっともっと読みたい気がした。前著『むし学』よりこちらの方がよいと思う。最近、大久保憲秀『動物学名の仕組み - 国際動物命名規約第4版の読み方』(伊藤印刷, 2006年)、J. E. Winston(馬渡 峻輔・柁原 宏 訳)『種を記載する - 生物学者のための実際的な分類手順』(新井書院, 2008年)といった参考書を取り寄せて、ハンミョウの記載論文の準備を少し始めた。本書はよい刺激になった。
  9. 9月8日 市河 三喜 :『私の博物誌』中央公論社, 1956年
     市河三喜は英語学の祖ともいうべき言語学者であるが、はじめは昆虫学を志したとのことである。数年前に、同じく博物学関連の随筆が収められた『昆虫・言葉・国民性』(研究社, 1939年)を偶然に見つけて読んでいた。本書巻末に置かれた済州島の採集旅行記(アメリカ人の採集家 M. P. Anderson に同行したもの)は、『昆虫・言葉・国民性』にも収められていた。漢拏山滞在中ずっと雨に降り込められた話を読み、2004年5月に植物調査で済州島を訪れた際、滞在中ほとんど雨だったことを思い出した。漢拏山にもゴアテックスを着て登った。
  10. 8月22日 笠井 献一 :『科学者の卵たちに贈る言葉 - 江上不二夫が伝えたかったこと』岩波科学ライブラリー, 2013年
     田舎の高校生だった私は、岩波新書『生命を探る』の著者として江上不二夫先生の名前を知り、漠然とした興味を持ち始めていた生化学を大学で学びたいと考えた。昨年秋に読んだ、大澤 省三『虫から始まり虫で終わる - ある分子生物学・分子進化学者の辿った道のり』の最後の章は「江上不二夫先生の教え」だった。「江上先生の教え」についてはほかでも読んだ記憶がある。もう少し知りたいと思っていた。この本はそれに応えてくれた。
  11. 8月18日 玉蟲 文一 :『一化学者の回想』 (自然選書)中央公論社, 1978年
  12. 7月30日 中村 浩志 :『甦れ、ブッポウソウ』 (ネイチャー・ストーリーズ)山と溪谷社, 2004年(図書館本)
  13. 7月28日 椎野 勇太 :『凹凸形の殻に隠された謎 - 腕足動物の化石探訪』(フィールドの生物学) 東海大学出版会, 2011年
  14. 7月22日 磯野 直秀 :『モースその日その日 - ある御雇教師と近代日本』有隣堂, 1987年
     石川千代松の記述を探して、久しい以前に入手していた本書を読んだ。E. S. モースの『日本その日その日』(平凡社 東洋文庫)もいずれ読みたい。
  15. 7月15日 William R. Leach : "Butterfly People: An American Encounter with the Beauty of the World", Pantheon, 2013年
     コロンビア大学の歴史学の教授(米現代文化史が専門)が書いた、19世紀のアメリカにおける蝶の研究史の本。後半の第2部の後半部から読み始め、第2部前半部、第1部と読んで、読了した。はじめは拾い読みのつもりだったので、変な読み方になってしまった。再録されている William Henry Edwards "The Butterflies of North America" (1868-1897) の図版が美しく、30年あまり前に、東京大学理学部動物学教室図書室で見て息をのんだ同書を思い出した。こういった本を読むたびに痛感するのは、書簡などのアーカイブの充実ぶりである。ごく一握りの人たちの記録に留まらず、幅広く保存されていることに驚かされる。本文に出てくる Charles Ishikawa は、石川千代松だと思う。註で述べられていること(著者の憶測)は見当違いのようだ。蝶の名前や分類学的扱いの誤りが散見されるのは残念。
  16. 7月2日 今野 浩 :『工学部ヒラノ教授』新潮文庫, 2013年
  17. 6月26日 今野 浩 :『工学部ヒラノ教授と七人の天才』新潮社, 2011年
  18. 6月25日 樋口 正信 :『コケのふしぎ』サイエンス・アイ新書 (ソフトバンククリエイティブ), 2013年
  19. 6月5日 川合 禎次 :『昆虫少年の博物誌―水棲昆虫とともに』 東海大学出版会, 2003年
     古書で購入して再読(2009年初読)。
  20. 6月4日 風野 寿美子, 佐藤 正孝 :『ラオスの風 サルイ村滞在記・他』風野書房, 2003年
  21. 6月2日 竹山 道雄 :『ヨーロッパの旅』新潮社, 1957年
     大学近くの古書店でたまたま見つけたのだが、東京裁判におけるオランダ代表判事との再会など、読んでみると非常に興味深い記述があり、掘り出し物だった。
  22. 5月31日 John Tyler Bonner : "Randomness in Evolution", Princeton University Press, 2013年
     大学生協書籍部で見つけて購入した。J. T. Bonner の本はこれまでに何冊か読んできたので、期待して読み始めたが、これまでのものと異なり、物足りない感じが強かった。「いつ本論に入るのかと思いつつ読み進めるうちに、とうとう巻末まで来てしまった」という感じ。
  23. 5月28日 サイモン・ウィンチェスター(鈴木 主税 訳):『博士と狂人 − 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』ハヤカワ文庫NF, 2006年
  24. 5月19日 ディノ・ブッツァーティ(脇 功 訳):『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』岩波文庫, 2013年(再読)
  25. 5月8日 ディノ・ブッツァーティ(脇 功 訳):『タタール人の砂漠』岩波文庫, 2013年(再読)
     この2冊は、岩波文庫に入ったのを機に、同文庫版を購入して再読した。
  26. 5月4日 ヴァレリー・アファナシエフ(大野 英士 訳):『ピアニストのノート』講談社選書メチエ, 2012年
     「アファナシエフ・プレイズ・モーツァルト」、「ブラームス: 後期ピアノ作品集2」という CD を購入して聴き、読んでみたくなった。
  27. 4月13日 岡崎 常太郎 :『わたしの昆虫誌 - むしとひとと自然』啓学出版, 1971年
     ずっと探していてようやく見つけて入手できたが、やや期待はずれの内容だった。
  28. 4月10日 佐藤 宏明, 村上 貴弘 :『パワー・エコロジー』海游舎, 2013年

  29.  3月16日(土)の23時頃、仕事帰りに大学構内で転倒し、左手首を骨折した。橈骨遠位端関節内粉砕骨折と尺骨茎状突起骨折という診断で、手術室スケジュールの空きを待って、3月25日(月)に京都第二赤十字病院に入院し、翌26日に約4時間の手術を受けた。4月1日(月)に退院。
  30. 3月31日 Malcolm Boyd : "Bach: The Brandenburg Concertos (Cambridge Music Handbooks)", Cambridge University Press, 1993年
  31. 3月29日 Christopher Wills : "The Darwinian Tourist: Viewing the World Through Evolutionary Eyes", Oxford University Press, 2010年
  32. 3月28日 Jorge Luis Borges (trans. by Eliot Weinberger) : "Seven Nights", New Directions, 1984年(再読)

  33.  入院中は、読書くらいしかできることがなく、上の3冊を読了した。Christopher Wills は、カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学中(1992-1995年)に同じ建物にいて、エレベータでよく顔を合わせた。この本は出てまもなく大学生協書籍部で見つけて購入した。読みかけたままになっていたが、入院に際して持っていき、読了した。手術日当日、16時からという手術を待ちながら、なんとか気持ちを紛らわすために、朝から読んでいた。予定よりだいぶ遅れて17時半に迎えが来るまでに、70頁ほど読み進んでいた。残りは手術後と思い、手術室に向かった。Malcolm Boyd の本は、16日の夜に転倒した際に、背のリュックサックに入っていた。たまたまその日の昼に大学近くの古書店で見つけて買ったものだった。薄い本だが、骨折が酷くなるのに少し寄与したかもしれない。そんな因縁と片手で持てる軽い本(読むのに手が疲れない)であることから、20日から読み始めた。入院の時点で読み終えていなかったので、入院に際して持っていった。ボルヘスの本は何度となく読み親しんだものであり、薄くて片手で持てる軽い本でもあるので、入院の荷物に入れておいた。手術翌日の痛みが酷い時に、読み慣れた何章かを読むことで、どうにか気持ちを紛らわすことができた。


  34. 3月3日 高木 典雄 :『こけやのたわごと』私家版, 1979年
     ナンジャモンジャゴケの発見者である蘚類学者の著書。たまたま古書で見つけて購入し、読了。
  35. 3月2日 Bruce Chatwin : "In Patagonia", Penguin, 1977年
  36. 2月13日 Bruce Chatwin & Paul Theroux : "Patagonia Revisited", Houghton Mifflin, 1986年(再読)
  37. 2月5日 串田 孫一, 二宮 敬(編):『渡辺一夫 敗戦日記』博文館新社, 1995年
  38. 2月3日 ブルース・チャトウィン(池 央耿 訳):『どうして僕はこんなところに』角川文庫, 2012年
  39. 1月28日 梯 久美子 :『百年の手紙 − 日本人が遺したことば』岩波新書, 2013年
  40. 1月27日 高見 順 :『敗戦日記』中公文庫BIBLIO, 2005年
  41. 1月21日 ドナルド・キーン(角地 幸男 訳) :『日本人の戦争 - 作家の日記を読む』文春文庫, 2011年
  42. 1月16日 由良 君美 :『みみずく古本市』ちくま文庫, 2013年
  43. 1月14日 堀 辰雄 :『雉子日記』講談社文芸文庫, 1995年
  44. 1月12日 ノエル・アナン(中野 康司 訳) :『大学のドンたち』みすず書房, 2002年
  45. 1月1日 Marie José Paz & Octavio Paz (trans. by Eliot Weinberger) : "Figures & Figurations", New Directions, 2008年
     しばらく前に恵文社(一乗寺)で見つけて購入したもの。マリ・ホセ・パスの作品(コラージュ)の写真はフランス語版(やはり恵文社で購入)の方がはるかにきれいで(英語版の写真は「ねむたい」感じ)、両方開いて読んだ。