自律的促進経路と春化依存促進経路

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"Auto" と "Vern" は、それぞれ、自律促進経路と春化依存促進経路を表し、(-), (+) は春化処理の有無を表す。矢印とTバーは、それぞれ、転写の促進と抑制を意味する。灰色はその遺伝子・経路が機能しないことを、黒色は機能していることを表す。FLCの文字の大小は、FLC遺伝子の発現レベルを表す。

 まず、実験室で広く用いられる系統(Columbia, Landsberg erecta, Wassilewskija, Nossen 等)では、花成抑制遺伝子であるFLC遺伝子の発現を正に制御するFRIGIDA (FRI) 遺伝子の機能が欠損している((a)の状態)。FRI遺伝子により活性化されたFLC遺伝子の発現は、春化過程で徐々に低下するため、FRI遺伝子の機能の有無が春化要求性の有無を規定することになる。FRI遺伝子の機能が欠損した実験室系統では、FLC遺伝子の発現レベルは低い状態に維持されており、そのため、強い春化要求性を持たない((a)(b)の比較)。これに対し、野外の自然集団に見られる系統の多くでは、FRI遺伝子の機能は保持されており、強い春化要求性がみとめられる。

 さて、自律促進経路の遺伝子の役割はFLC遺伝子の発現を抑制することにあるが、これらの遺伝子は、FRI遺伝子や春化依存経路の遺伝子とは独立に機能する。FRI遺伝子の機能が欠損している実験室系統で、自律促進経路の機能が失われると、低いレベルにおさえられていたFLC遺伝子の発現レベルが上昇し((c)の状態)、これを抑えるために、これまで必要としなかった春化処理を必要とするようになる((c)(d)の比較)。自律促進系路の機能喪失変異体において春化要求性(春化処理応答性)が見かけ上 "獲得" されるのは、このためである。